
以前、奈良県の中学校で痛ましい事故が起きてしまったのは各社既報のとおり。ハンドボール部の練習中、無給水でランニングを続けた生徒が倒れ、搬送先の病院で死亡。熱中症がきっかけによる不幸なできごとでした。
私が中学生のころ、スポーツ〔部活〕中はうだるような猛暑日でも「水分を一切摂らない」のが“常識”とされていました。真夏に数時間にわたって水分を絶ち、激しい運動を続けていたのです。
若い世代の方は信じられないかもしれませんが、真夏の運動時でも「水は飲まない」のが正しいとされた時代があったのです。
なぜ水分を摂取しなかったかというと、「水を飲んだらバテる」という説がまじめに信じられていたからに他なりません。
いま考えるとバカバカしい話です。ひとつだけメリットをあげるとすれば「水の本当のおいしさ」を知ることができたこと。失神一歩手前まで喉が乾いた状態から飲む水道水のおいしさは、世界のどんな飲み物よりうまかった・・・。
では当時、熱中症でバタバタと生徒が倒れまくっていたかというと、あまりそのような記憶はありません。当時、ニュースでも「熱中症」や「脱水」という言葉すら見聞きした憶えはありません。
では実際にはどうだったのだろうと調べたところ、環境省の「熱中症 環境保健マニュアル」にデータが載っていました。それによると、「運動中は水分を摂らない」のが常識だった80年代の熱中症死亡者は数十人から多い年で100人ぐらい。それが、2010年はなんと1745人でした。

日本人のほとんどが「熱中症予防には水分・塩分のこまめな摂取が不可欠」という基本的なことさえ知らなかった時代より、現在の方がむしろ熱中症患者が増えているという皮肉・・・。
もちろん、昔は今ほど気温が上がらなかったため熱中症リスクも低かった、という一因がある(下図参照)にせよ、当時は日本のほとんどの中学生たちが炎天下のなか水分を一滴も摂らずに運動していたわけです。

おまけに光化学スモッグもバンバン発生したり。死人が出なかったのが不思議なくらいです。もしかしたら日本人そのものがタフだったとか?
はい、じつはこれにはカラクリがありまして・・・1995年から「熱中症」に対する診断基準が変わり、統計上の患者数が一気に増えただけなのです(上のグラフ参照)。
つまり、当時も今と同じように熱中症で倒れたり死亡する人がいても、別の病名で診断されていた可能性が高かったというわけ。
「夏こそこまめな給水」を心がけ、マラソンシーズンに備えましょう。