学生の頃、住んでいたアパートの近くにコンビニがオープンした。その店は60才ぐらいの夫婦が経営しており、話によると夫のわずかな退職金と新たに借り入れた資金を元手にお店を開いたのだという。店の立地が小学校・中学校・高校の通学路になっていて、早朝・夕方の店内は子どもたちや学生服の集団でごったがえしていた。私も家から歩いて2分ということもあり、それこそ毎日のように通っていたものだ。
オープンから2年ほど経ったある日の夕方、いつものごとく弁当でも買おうとコンビニへ。しかし、時間帯からして中高生でにぎわっているはずなのに人っ子ひとりいない。それもそのはず、店のシャッターが閉まっていたのだ。365日24時間営業が当たり前のコンビニのシャッターが下ろされている光景は不思議な感じさえした。シャッターにはそのコンビニチェーンの本社名義で、店主の事情により休店する旨が書かれていた。だが、その後いつまでたっても再開する様子はなかった。

当時、私はスーパーマーケットでアルバイトをしていた。ある日、休憩時にふとしたきっかけから店長と万引きの話になった。店長はためいきをつきながら「うちもひと月に50万はやられる」と嘆き、続けた。「□□□町の○○○○しってる? あそこの夫婦なんて万引きに殺されたようなもんだからな」。えっ? ○○○○といえば、とつぜん閉店したあのコンビニのことだ。「殺されたってどういうことですか?」「うん。万引きの被害が相当ひどかったらしくてね。赤字と借金ばかりが増えていく状態だったらしい」「それで?」「・・・ご夫婦で心中したそうだよ」。
いかにも人の好さそうな老夫婦の笑顔が思い浮かんだ。スーパーの店長によると、夫婦は万引きした学生をみつけてもやさしく諭すだけで警察にはぜったい連絡しなかったという。それが悪ガキどもの間で「あの店は万引きがみつかっても許してくれる」というウワサになり、「ターゲット」にされてしまったというわけだ。万引きが人の命を奪う。世の中にはそんな悲しいこともある。