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2007年01月15日

百貨店な人々1「地獄の軍事訓練」

広告業に携わる前、大阪に本社を置く百貨店に勤めていたことがある。もう10年以上も昔の話だ。勤務していた支店はすでに撤退しており存在しないため、このブログでネタにしたところで誰にも迷惑はかかるまい。そこで、今日から新たに「百貨店な人々」というカテゴリーを新設し、シリーズで百貨店業界のウラオモテを記してきたい。第一回目は「地獄の軍事訓練」。

私が入社した年は、ピークを過ぎたとはいえまだまだバブリーな時代。新卒採用は大卒だけでも500名を超えていた。この500名がそれぞれ全国の支店に配属され、デパートマンとして華やかな日々を送るのだ!・・・と妄想していられたのは、このときまでだった。

実際の職場に配属される前、2週間ほど神戸のとある施設にて研修合宿が行われた。しかし「研修」とは名ばかりで、その実態は新入社員たちが持っている「学生気分」を完膚無きまでに叩きのめす儀式に他ならなかった。合宿初日、期待に胸をふくらませて研修会場となる会館の門をくぐった。満面の笑みで出迎える本社の人事課長から手渡されたのは、中学生のとき体育で着ていたようなダサい緑色のジャージ上下だった。総勢500名にジャージが行き渡るのを見届けると、人事課長は微笑みを絶やすことなくいった。「今日はこれから夕食をとっていただきま〜す。その後はとくに予定はありませんので自由に過ごしてくださいね。明日は朝7時から研修が始まります。遅れないようにホールへ集合してくださいね〜」。さすがデパートマン。笑顔がまぶしいぐらい爽やかである。これは楽しい研修合宿になりそうだ。ジャージがダサいのぐらいガマンしよう。

翌朝、モソモソと緑ジャージに着替え、眠い目をこすりながら集合場所のホールへ。ん!?・・・何か空気が違う・・・。そこで待っていたのは、竹刀を片手に能面のような表情で仁王立ちする人事課長の姿だった。昨日までの、いかにもサービス業というにこやかな表情はかき消え、三々五々ホールに入ってくる新入社員たちをサメのように冷たい視線でにらみつけている。みんな異変を察しながらも、自分のネームプレートが置かれた席につく。集合時刻の7時まであと5分。まだ4分の1ほど席が空いている。サメ課長は腕時計で時間を確かめると、ノソノソとホールに入ってきた新入社員にいきなり罵声を浴びせた。「おいお前っ、7時に集合と言っただろう。遅刻だ!舞台に上がっとれ!」。私は時計を確認したが、まだ7時にはなっていない。明らかにサメ課長の勘違いだ。しかしその後も続々と入ってくる新入社員たちに「遅刻」を宣告し続け、最終的には舞台に30名ほどが立たされることとなった。

中には勇者がいるもので、ホールの壁に掛けられている時計を指さしながら反論する。「まだ7時になっていません!」。しかしサメ課長はまったく動ずる気配を見せず、地の底からわき上がるような低い声でこういった。「・・・7時に始まるといわれたら、5分前には席に着いていなければならない」。ちなみにこの「5分前集合」は実際の業務の上でも徹底された。「遅刻」は組織を腐らせる最大級の「悪」とされており、配属先の上司からも真顔で「遅刻するぐらいなら休め」といわれたぐらいだ。舞台上の約30名はその後、昼食までの約5時間をシカトされ続けた。

さて、研修の内容といえば、百貨店や流通に関する実質的な「講義」はほんのわずかで、日程のほとんどがひたすら「声を出す」ことに費やされた。たとえば「歌唱指導」と呼ばれるカリキュラムでは、サメ課長が無作為に新入社員一人の名前を指名し、好きな歌を大声で歌わせるのだ。最初のうちはみんな恥ずかしがっていたが、3日目ぐらいにもなると感覚が麻痺してどうでもよくなっていた。察しはついていると思うが、歌唱「指導」の中身は「もっと大きな声で!」または「腹から出さんかい!」の2点のみだった。

少なかったとはいえ、ひとコマ2時間にもおよぶ「講義」もツライ時間だった。大学教授なども講師陣に含まれていたようだが、内容なんてまったくアタマに入らない。ただひたすら睡魔と格闘するだけだ。腕を思い切りつねる者、モモに爪を食い込ませる者、シャープペンの芯を皮膚に突き刺す者など、戦い方はバラエティに富んでいた。私は手軽に行えるシャープの芯派だった。睡魔に負けて首をカックンさせようものなら、鬼教官が飛んできて間隔1cmの至近距離で罵声を浴びせられる。

合宿中はとにかく「時間」に拘束されていた。とくに入浴の時間は脱衣を含めてわずか10分という過酷な短さ。のんびり湯船につかってなどいられるはずもない。みんな慌てて風呂場を駆け回るため、転倒して尻や後頭部を強打する者が続出する始末。デパートマンのたしなみとして洗髪が義務づけられていたのだが、シャンプーを洗い流す前にタイムアップとなり、頭がアワアワのままで過ごすことを余儀なくされたのは私だけではない。朝の洗顔も制限時間が5分(教官がストップウォッチで計っていた)。ここでもみんな急いでヒゲを剃る(もちろんヒゲそりも必須)ものだから、失敗して顔を血だらけにしている者が多かった。まさに修羅場、戦場、地獄・・・。学生時代ののほほ〜んとした生活が夢のようだ。自由なひとときは消灯後のベッドの上だけ。ひと部屋に8人ずつ収容された。合宿後はそれぞれ異なる店へ配属される可能性が高いので2週間だけのルームメイトだ。真っ暗な中、将来の夢や仕事への期待を語り合ったのが唯一楽しかった思い出かもしれない。

そんな軍隊式の研修だから、500名の新入社員の中にはついていけない者もいる。実際に5名が研修半ばで合宿所を逃亡した。その後の彼らがどうなったか知る人はいない。合宿最終日には全員の声がつぶれており、空気だけがのどを通るようなスカスカな声で「大声」を張り上げ続けていた。やがて全行程が終了。マイクロバスに分乗し、悪夢の舞台となった会館をあとにした。神戸駅で帰りの新幹線チケットを購入する際ついに声が出なくなり、みどりの窓口の人と「筆談」したのを憶えている。

あの合宿から十数年。500名の「新入社員」たちは今ごろどうしているかな。デパートマンを続けている者や、私のようにまったく異なる業界へ転身した者も多いかもしれない。共通するのは、あの地獄の2週間をともに耐え抜いたということだけ。「戦友」とはこういうものをいうのだろう。・・・いや、違うなやっぱし。


 
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